伊丹簡易裁判所 昭和44年(サ)260号 判決 1970年4月25日
申請人
日本航空労働組合
右訴訟代理人
並河匡彦
外四名
被申請人
日本航空株式会社
日本航空株式会社大阪空航所
代理人
渡辺修
外三名
主文
当裁判所が申請人、被申請人間の昭和四四年(ト)第一二号仮処分命令申請事件につき、昭和四四年五月七日なしたる仮処分決定は、主文第四項として、
一、被申請人は被申請人会社大阪空港所の建物のうち第一項記載の建物部分と同等広さの場所を、申請人組合事務所に供与して、第一項の建物部分に替えることが出来る。
と追加して認可する。
被申請人の本件異議申立を却下する。
訴訟費用は被申請人の負担とする。
事実《省略》
理由
一被申請人の管轄違の抗弁について判断する。
被申請人は被申請人会社大阪営業所所在地は大阪府豊中市大字麻田五五五番地であつて当裁判所の管轄に属しない。又本件仮処分は被申請会社大阪営業所に於ける業務に関するものではないから、大阪営業所所在地に管轄権がない。と主張するが、証人吉田久善の証言によると、被申請会社大阪営業所の現実の所在地は、伊丹市、池田市、豊中市の行政区画に跨つて存在することが明らかであり、斯る場合には伊丹市、豊中市、池田市を管轄する各裁判所が、夫々管轄権を有するものと認めるのが相当であり、伊丹市を管轄する当裁判所にも管轄権があるものと認める。又<証拠>によると、右被申請人会社大阪営業所は、同営業所の人事の管理、労働組合との大阪営業所に於ける折衝事務等を行う権限を有することが認められ、而も右認定に反する疏明はないから、本件の如く同営業所に於ける労働組合の組合事務所の使用権についての紛争は同営業所に於ける業務に関するものであることが明らかであり、被申請人の管轄違いの抗弁は何れもその理由がない。
二申請人組合が被申請人会社の従業員約四〇〇名を以て組織する労働組合であること、同組合大阪支部の組合事務所として、被申請人が申請外国際航業株式会社から賃借していた大阪空港所所在の格納庫の一部を、昭和四一年八月以来占有使用して来たが、昭和四四年一月被申請人と右申請外会社とが右賃貸借契約を合意解除し、申請人に右組合事務所の明渡し返還を求めたこと、申請人は右申請人外会社から実力を以て右組合事務所の明渡しを強行されるおそれがあるとの理由で、昭和四四年一月一六日大阪簡易裁判所に使用妨害禁止の仮処分を申請し、同月二二日同裁判所に於て、右国際航業株式会社は実力を以て右格納庫を取毀すなどして、申請人の労働組合事務所として占有使用することを妨害してはならない、旨の仮処分決定があつたこと、右国際航業株式会社は申請人を相手方として伊丹簡易裁判所に右組合事務所明渡し断行の仮処分を申請し、昭和四四年四月二八日同裁判所はこれを容れて右事務所明渡断行の仮処分決定をなし、同事務所明渡しの執行があり、同建物は既に取毀されたこと、被申請人が同会社の従業員の一部を以て組織する日本航空民主労働組合大阪支部に対して被申請人会社大阪営業所構内に組合事務所を供与していること、申請人組合大阪支部に対し被申請人が労働組合事務所を供与していないことは当事者間争いがない。
三労働組合法は労働者が労働組合員であることにより、使用者はこれに対し不利益な取扱いをすることを禁止している。このことは使用者はその事務所に二以上の労働組合が併存する場合、これ等の労働組合員に対し、甲組合員たることにより乙組合員たる者より不利益な取扱いをなすことをも禁止する趣旨であつて、若しこれに反するときは不当労働行為を構成するものと解する。
四労働組合にとり組合事務所は組合活動の中心であり、団結権の物的基礎である。而もその性質上事業所内部に存することが望ましい。強固な団結を維持し、健全なる組合活動をなすについて組合事務所は絶対的必要場所である。そのことは労働組合法第七条第三号が、使用者の労働組合に対する支配介入を禁止する反面、最小限の広さの事務所の供与を認めて居る法意に照しても明らかである。
申請人組合が昭和四一年八月以降前示明渡断行の仮処分決定執行のあるまで被申請人が申請外国際航業株式会社から賃借していた事業所建物の一部を、組合事務所として占有使用して来たことは当事者間に争いがないところであり、右事務所明渡の仮処分執行が国際航業株式会社と被申請人との賃貸借契約による止むを得ない事由によるものであつたとは言え、斯る場合、申請外日本航空民主労働組合大阪支部に対しては、新事業所建物内に、代替事務所を供与し、申請人組合大阪支部に対し事務所を供与しないことは、申請人組合の組合員に対し、同組合員であることの故を以て、前記日本航空民主労働組合の組合員より不利益な取扱いをなす結果となり、労働組合法第七条第一号の不当労働行為を構成する。
従つて申請人は被申請人に対し右不当労働行為による権利侵害を排除するため、労働組合事務所の供与を求める権利があり、本件仮処分の被保全権利について欠くるところがない。
五労働組合にとり組合事務所の必要性については既に説示した通りであり、然も申請人は事務所明渡断行の仮処分執行によりその組合事務所を失い、組合活動の本拠を欠いているのであるから本件仮処分の必要性に於ても何等欠くるところがない。
六被申請人は申請人組合大阪支部は組合員七名であつて、これに事務所を供与しないからと言つて不当労働行為にはならない。又仮に不当労働行為となるとしても、申請人は被申請人に対し、組合事務所の供与を請求し得るに止り、特定の場所を指定してこれが供与を求める権利はない。
と抗争する。
成る程<証拠>によると、申請人組合大阪支部に属する組合員の員数が現在一三名であることが認められるが然し労働組合の組合員の員数は流動的なものであつて、それは組合活動の如何によつて左右されるものである。而も組合活動を有効ならしめるにはその物的本拠となる組合事務所の必要なことは言うまでもない。現在の組合員の少数であることのみを以て、申請人組合大阪支部に組合事務所の必要性が無いとは認められないし、従つて之を以て事務所の不供与が不当労働行為に当らないとする被申請人の主張は理由がない。
次に使用者の組合事務所不供与が不当労働行為となる場合、之が救済保全の方法として使用者に組合事務所を供与すべきことを命ずることが理論的には妥当の方法であることは言う迄もない。然し労働事件の保全訴訟に於ては斯る事務所の供与を命じても、その執行について間接強制より他なく、斯くては経済的に優位に樹つ使用者によつては保全の目的を達し得ない場合も考えられる。従つて事業所の一部建物が特に使用者の業務に支障を来さない場所である限り、その場所を特定してこれに組合事務所としての占有使用を命ずることも決して被保全権利以上のものを労働組合に与える趣旨とはならず、仮処分決定として違法なものではない。尤も使用者に於て右特定場所以外の場所を組合事務所として組合に供与し、右場所に替えることが出来ることは言うまでもない。
本件について看るに本件仮処分決定により申請人組合の事務所として使用を認めた場所は、証拠によると、被申請人に於て現在使用して居らず、組合事務所として占有使用するも被申請人の業務遂行上に支障がないことが疏明されるし、又その広さに於ても労働組合事務所として、最小限度のものと認められるから、右場所を特定して労働組合事務所として申請人組合の占有使用を認めた本件仮処分決定が違法であるとは言えない。
唯右場所について被申請人の業務上必要があり、他の同等広さの代替場所を被申請人が供与するに於ては、右場所を変更することが出来る旨の条項を本件仮処分決定に於て認めなかつたことは、前示理由により不相当である。
仍て本件仮処分決定に右条項を追加変更して認可することとし、被申請人の本件異議はその理由なきものとして却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文の通り判決する。
(北村貞一郎)